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広島高等裁判所 昭和39年(ネ)92号 判決

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は、被控訴人に対して、金一四九、一四四円とこれに対する昭和三五年六月二六日から完済まで年三割の割合による金員の支払をせよ。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人、その一を被控訴人の各負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張と証拠関係は、次に掲げるところのほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人は、次のように述べた。

被控訴人が控訴人所有の本件宅地を占有するに至つたのは、次のような事情によるものである。すなわち、控訴人は、かねて本件建物とともにその敷地である本件宅地についても、被控訴人のため抵当権を設定したのであるが、被控訴人は右抵当権の実行として本件建物に対し競売の申立をなし、その競売手続において最高価競買申出人として、昭和三五年五月九日の競落許可決定により右建物の所有権を取得するとともに、右宅地に対し法定地上権を得たからである。

控訴代理人は、原判決三枚目裏九行目に「金二五、〇〇〇円」とあるのを「金二五、八〇〇円」、原判決四枚目表二行目に「昭和三五年七月一日」とあるのを「昭和三五年一二月四日」と、それぞれ、訂正した上、次のように述べた。

被控訴人の右主張事実のうち、控訴人が、本件宅地について、被控訴人のために抵当権を設定したこと、ならびに、被控訴人が右宅地上に法定地上権を取得したことを否認する。

本件宅地は、もと内田進の所有地六〇坪の一部であり、控訴人が同人からこれを買い受けた当時は、すでに、三原市城町土地区画整理組合による土地区画整理事業の施行中であつて、控訴人は、区画整理後の土地の取得を目的として場所を特定せずに買い受けたものであるから、換地処分が終了するまでは、その土地の使用収益については、従前の所有者たる内田進との共有関係にあつたので、内田進の同意を得て、右地上に本件建物を建築し、昭和三三年四月一日、右建物について被控訴人のため抵当権を設定し、同月一九日、その登記をしたのであるが、その当時は、前示土地区画整理組合によつて控訴人の右土地に対する管理処分の権限が制限され、建物については抵当権設定登記ができても、土地については抵当権設定登記はおろか、所有権取得登記さえできず、控訴人が右宅地上に単独の所有権を取得してその保存登記をしたのは昭和三五年一二月三日であるから、右宅地上の本件建物につき、被控訴人のために抵当権を設定した当時には、本件宅地の元地は控訴人と内田進との共有に属し本件宅地および建物は同一の所有者に属していたとはいえない。土地の共有者の一人がその地上に建物を所有する場合にも法定地上権の成立が認められていない(昭和二九年一二月二三日言渡最高裁判所第一小法廷判決参照)から、本件の場合にも法定地上権の成立はないものというべきである。

(立証省略)

理由

被控訴人が昭和三三年四月一日、控訴人に対して、金一、一〇〇、〇〇〇円を、弁済期は昭和三四年三月三一日とし、利息付で貸しつけ、控訴人は、その担保として、三原市城町六〇二番地の一八地上所在の家屋番号同町二四番の三、木造瓦葺三階建店舗兼居宅一棟建坪一九坪七合五勺、外二階一九坪七合五勺、三階一八坪(現在同町三番地の一六所在家屋番号同町三番の一七)に抵当権を設定し、同月一九日その登記をしたこと、しかるに、控訴人が、右貸金に対する弁済として、昭和三三年四月三日金四、二〇〇円同月一三日金二八、〇〇〇円、同年五月八日金二四、五〇〇円、同年六月九日金二五、八〇〇円、同年七月一一日金二五、〇〇〇円、同年八月一一日金二五、八〇〇円、同年九月一五日金二四、五〇〇円、合計一五七、八〇〇円を支払つたのみで、その余の支払をしなかつたので、被控訴人が、右抵当権の実行として、広島地方裁判所尾道支部に右不動産競売の申立をなした結果、昭和三五年六月二五日の競売代金交付期日に、競売代金から競売費用と優先権者に対する配当額を控除した残額一、三二八、六七八円の交付を受けたことは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない乙第一、第四号証、原審における控訴人本人尋問の結果によつて成立を認め得る乙第二号証、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、右貸金元本に対する利息は、一カ月金二四、五〇〇円の割合で毎月末日限り支払い、期限後の損害金は、年三割の割合で支払う旨の約定のなされたことが認められ、甲第一号証の記載、原審および当審における控訴人本人尋問の結果のうち右の認定に反する部分は信用し難く、他に右の認定を左右するに足りる証拠は存在しない。(なお、被控訴人の本件貸金の利息に関する自白の取消については、当裁判所も原審とその判断を同じくするので、原判決の理由中該当部分を引用する。)

ところで、本件貸金の元本は金一、一〇〇、〇〇〇円であつて、利息制限法による制限利率は弁済期までの利息が年一割五分であるから、右元本に対する一ヵ月金二五、四〇〇円の割合は、年二割六分弱で、右の制限を超過していることは明らかである。原審ならびに当審における被控訴人および控訴人各本人尋問の結果によれば、控訴人がなした前記各弁済金は、利息として任意に支払つたものであることが認められ、右の認定を左右するに足りる証拠はない。そして、法定の制限を超過して任意に支払われた利息は、元本の弁済に充当されるものと解される(昭和三九年一一月一八日言渡最高裁判所大法廷判決参照)から、控訴人の前記各弁済金のうち年一割五分の制限利率によつて算出した利息額を超過する部分を弁済期毎に元本に繰り入れて順次計算をすれば、次のとおりである(円未満切捨。)

〈省略〉

すなわち、昭和三三年一〇月一日現在の元本残額は、金一、〇二二、〇七六円であることが明らかであり、前記競売代金の交付による支払については、当事者において弁済充当したことを認め得る証拠がないから、利息制限法所定の制限利率による法定充当を行うべく、昭和三五年六月二五日の前記競売による被控訴人の取得金一、三二八、六七八円を当時の本件貸金元本残額一、〇二二、〇七六円、ならびに、これに対する昭和三三年一〇月一日から昭和三四年三月三一日まで利息制限法所定の範囲内における年一割五分の割合による約定利息金七六、四四五円、および、期限後の昭和三四年四月一日から昭和三五年六月二五日まで年三割の割合による約定遅延損害金三七九、三〇一円に充当すれば、元本残額一四九、一四四円であることは計算上明らかである。

次に、控訴人主張の相殺の抗弁について判断する。

被控訴人が昭和三五年一二月四日以降昭和三八年一一月末日まで控訴人所有の三原市城町三番地の一六、宅地二一坪六合四勺地上に前記建物を所有して、右宅地を占有していることは、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第四号証の二の一、二、甲第六号証、乙第四、第七号証、当審における被控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第七号証、当審における証人荒川幸市の証言、被控訴人および控訴人各本人尋問の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人が、昭和三〇年頃、内田進から、同人の所有の三原市城町六〇二番地の一八、宅地六〇坪の一部であり、当時、三原市城町土地区画整理組合による土地区画整理事業施行地区内にある従前の土地に対応する仮換地としての本件宅地を買い受け、内田進の同意を得て本件宅地二一坪六合四勺の範囲を定め、右地上に本件建物を建築し、昭和三〇年六月二九日、所有権保存登記をしたことその後、昭和三三年四月一日、控訴人が、被控訴人の前記貸金債権担保のため、右建物について抵当権を設定し、同月一九日、その旨の登記をすると共に右建物の敷地である本件宅地に対しても抵当権を設定することを承諾したこと、ところが、昭和三三年五月二〇日、控訴人の債権者たる西本勉から、広島地方裁判所尾道支部に対し、右建物について、広島法務局所属公証人志熊三郎作成昭和三二年第一〇八〇号家屋売渡公正証書の執行力ある正本に基づく強制競売の申立があり、昭和三三年五月二一日、強制競売手続開始決定がなされ、次いで被控訴人は前示のとおり抵当権の実行による競売申立をなし、その結果、被控訴人が、最高価競買申出人として、昭和三五年五月九日の競落許可決定並びに競落代金の支払により、右建物の所有権を取得したこと、なお、控訴人は、昭和三五年一二月三日、前記区画整理の終了に伴い、本件宅地について所有権保存登記をしたが、その以前控訴人は内田進との協議により前記建物の建築された頃すでにその敷地である本件宅地を控訴人の所有とする合意の成立していたことが認められ右の認定を動かすに足りる証拠は存在しない。

以上の事実によれば、仮換地については、すでに控訴人と内田進との間の協議による分割がなされ、前記建物の敷地である本件宅地につき控訴人が単独所有者と同様の使用収益権を有するに至つた後に右建物に対し被控訴人のため抵当権の設定されたことが明らかである。そして、この様な場合には、控訴人は、民法第三八八条の準用により、競落人たる被控訴人のために、本件宅地について地上権を設定したものとみなされると解するのが相当であるから、被控訴人は、本件宅地を正当な権原に基づいて占有するものといわなければならない。

従つて、被控訴人の本件宅地の不法占有による損害賠償債権を自働債権とする控訴人の相殺の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく失当であつて、採用することはできない。

結局、控訴人は、被控訴人に対して、本件貸金元本残額一四九、一四四円と、これに対する昭和三五年六月二六日から完済まで年三割の割合による約定遅延損害金の支払義務があるというべく、被控訴人の本訴請求は、右の限度で理由のあることが明らかであるから認容すべきものであり、その余は失当として棄却すべきものである。原判決は、右と異なる限度で変更を免れない。

よつて、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九二条の規定に従い、主文のとおり判決する。

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